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コラム

【体験・インタビュー】自然の持つ色でオンリーワンのアイテムに染め上げる

日本最大級のリユースデパート・コメ兵のオウンドメディア・KÓMERU編集長の坊所が、東京・蔵前にある人気の「Maito Design Works」(以下、MAITO)で草木染体験をしました。 自然にも人にも優しい草木染を日常に取り入れるヒントや、草木染を通じたサステナブルな活動について伺いました。

草木染とは

草木染とは、天然の植物の色素を用いて行う染色のこと。藍(あい)、茜(あかね)といった植物性染料が主です。染料として使用する植物の違いはもちろん、媒染剤によって異なった色に染め上げられるのもポイントのひとつ。
今回、坊所編集長が体験したのは、アカネ科の多年生植物の根を煮出した染液で染める草木染で、鮮やかな茜(あかね)色に染めることができるそうです。「日本の国旗の日の丸も茜で染めたものですよ」と小室さん。日本人に古くから親しまれてきた草木染の1つに挑戦しました。

草木染に使用する材料となる植物

【体験】いざ、草木染体験

材料

・染めるアイテム
・染料
・媒染(ミョウバンなど)
・鍋
・バケツ
・長めの菜箸

ストールと茜染めのチップ

工程

①まずは、自分が染めてみたいアイテムを選ぶところから体験がスタート。
絹や麻、綿、竹、羊毛といった天然素材で織られたストールやショール、靴下など、さまざまに取りそろえられています。

選択できる素材

悩んだ末に、坊所は麻と綿の混紡生地による薄絹のストールをチョイス。「どれがいいか自分で選べる楽しさがありますね」と、染める前から嬉しそうです。

②次にチップ状の茜の根を鍋で煮だし、染液を仕込みます。

染液

「湯を沸かしたり、煮だす作業が欠かせないため、夏場はけっこうきついです(笑)」。(小室さん)

③選んだストールは、粉状のミョウバンという媒染をお湯に溶かした媒染液によく浸します。
これは、茜の色を布にしっかりと留めるために必要なとても重要な工程。
編集長は、湯にミョウバンを溶かし、そのなかに選んだストールを投入。やけどに気を付けながら長い棒で攪拌し、15分ほどかけてミョウバン液をしみ込ませていきます。ミョウバン液を染みこませたストールは、一度軽く水洗いし、脱水機にかけます。

媒染液にストールを浸す

この工程が一番時間がかかる為、「この作業が一番大変でした」(坊所)とのこと。

④染液ができたら、いよいよ草木染の醍醐味である染色体験です。

グラスに入った染液

湯気が立ち上る染液は赤ワインのような濃い赤色に。

ストールを染める準備をする女性2人

全体を均一に染めるか、グラデーションを付けるかなど、染め方を自分で決められます。どんな仕上がりにしたいか、アトリエのスタッフさんと打ち合わせながら進めます。

ストールの染め方の説明する男性と説明をうける女性

グラデーションの濃淡をつけるために、段階を踏みながら染液に付けたり、引き上げたりを繰り返します。

染液にひたすストール

次第に染液の色が薄く、透明度が増し、布に染料がしみ込んでいったことが視覚的にも確認できるようになります。
小室さんが、体験中は工程の意味や注意点などを丁寧に説明してくださるほか、草木染の豆知識なども教えてくれます。まるで“大人の社会科見学”のような楽しさが感じられます。

⑤染付が完了したら、ストールを軽く水洗いし、乾燥させて完成!

その過程で、色合いが変化するので、それもまた体験の楽しさと言えそうです。

染め上げたストールを持つ女性

「染液を見たときは、かなり色が濃かったので『大丈夫かな?』と不安になりましたが、実際にできあがった色がすごくキレイで大満足です」とにっこりする坊所。

【インタビュー】草木染とサステナブル

草木染の体験を通じて、すっかり打ち解けた2人。草木染や小室さんに関する素朴な疑問から、対談はスタート。

話す男女

草木染の世界への入口

坊所:ご実家も染物屋さんだそうですね。なぜ小室さんも同じ道を選んだのですか?
小室:もともと我が家は丹後ちりめんを作っていて、父の代から染め物をメインに手掛けるようになりました。僕が小学3年のとき、染め物に大切な水を求めて福岡県に転居し、そこで父に半ば強制的に手伝わされて(笑)。草木染は、草や木、花が染料ですから、野山に素材を取りに行きます。春になればついでに山菜も摘み、夏は虫取りをしながら染めの材料を取るといった具合で、山遊びの延長のような感じが楽しかったんです。
東京藝術大学に進学し、陶器をはじめとするいろんなものづくりを学びましたが、僕の中で染め物が一番しっくり来た。それでテキスタイルの道に進もうと決めましたが、当時は化学染料一辺倒。今でこそ、草木染も少し見直されていますが、あの頃は「草木染は古臭い」とか「仕事にしても食っていけないよ」とネガティブな反応が大半でしたね。

坊所:それでも草木染がやりたかったのですね。
小室:ええ。草木染って、ビビッドな色は出しにくいし、化学染料のように大量な素材を均一に染めるのは苦手です。でもその一方で、天然染料なので環境に人にも優しいですし、ニュアンスのある色が出せます。また、植物で染めるので季節を身近に感じられる。たとえば、サクラで染めるとピンクに染まります。化学染料で染めたら、それはただのピンク色ですが、サクラで染めたと思うとそこに物語が感じられますよね。それは草木染ならではの魅力だなと。今回、草木染を体験してどうでしたか。
坊所:染めている最中はどんな色になるか分からず、少し不安もありました。でも、引き上げて洗って乾かしていくなかで、違った色に変化していきました。そうしたドキドキ、ワクワク感があるのがいいなと思いました。

さくらの枝と染め上げた布

ものづくりの街、蔵前とMAITOのこだわり

現在、東京・蔵前本社&アトリエのほか、福岡県や大阪府にも製造拠点を構えるMAITO。製品を扱うショップは全国各地にあります。2010年に起業してから、人気店になるまでにはご苦労もあったと言います。

坊所:おしゃれなカフェの街、蔵前にアトリエを構えようと思ったのはなぜですか。
小室:大学卒業後、一度福岡に戻ったのですが、やはり東京にも拠点が欲しいと思うようになりました。僕が拠点をどこにしようか迷っていたとき、蔵前でアトリエを構える方たちから声をかけてくれました。蔵前は、学生時代によく通っていた街でもあり、レザーなら浅草橋、三筋は金具といった、日本有数の専門店街からも近く親しみがありました。実際にアトリエを構えてみると、周囲に作家や職人さんも多く、ものづくりをするのにいい環境だと分かって居付いたという感じですね。

坊所:作家ではなく、会社としてものづくりをするうえでのこだわりを教えていただけますか。
小室:ひと口に草木染と言っても、いろいろとあります。MAITOは、糸の前段階の綿から染めてテキスタイルを作り、製品化するまでの全工程を手がけています。そこが他とは大きく違うところですね。草木染は一度に大量生産できないため、なかなか工場のラインに乗せにくいのですが、そこはコツコツといろんな方との関係性を築いていって、なんとか製品化にこぎつけています。自分たちで染めるにしても、100キログラムとか500キログラムとかの素材を手作業で染めるので体力的にしんどい(笑)。でも、届けたい思いがあるから、頑張れるんです。
坊所:MAITOの人気は、地道な努力に裏打ちされているんですね。
小室:ありがとうございます。本音を言えば、僕は草木染の研究とアーカイブ作成に没頭したいところですが、それでは草木染の良さをなかなか知ってもらえません。だから、こうしたワークショップや僕らの製品を通じて、草木染の魅力を少しでも発信したいと思っています

草木染で染め上げた糸

草木染のお手入れと染め直しという楽しみ方

坊所:今回の体験で、草木染のイメージが変わりましたし、ハードルもぐっと下がりました。草木染アイテムのお手入れで、気を付けたほうがいいことはありますか。
小室:天然色素は漂白剤に弱いので、中性洗剤で洗ってほしいですね。あと、太陽光を浴び続けるのもよくないので、陽陰干しが望ましいです。それでも次第に色は淡くなりますが、その色の変化も楽しんでいただきたいですね。さらに淡くなったら、今日体験したようにミョウバンにしっかり漬け込んでから色を染め直してみてはどうでしょう。1つの色だけでは出ない、染め直したからこその色の足し算もまた草木染の楽しさだと思います。

話す男女

草木染の日常生活での取り入れ方

特別な機材や材料、キットがなければできないという印象が強い草木染。ですが、小室さん曰く「100均やスーパー、キッチンにあるもので草木染は楽しめますよ」と笑顔で教えてくれました。日常で手軽に草木染を取り入れるヒントをさらに伺いました。

小室:今日染めたような新しいストールやハンカチはもちろんですが、愛用するTシャツの襟元が少し黄ばんできたら、草木染で蘇らせてみてください。ミョウバンなら手軽に買えますし、近所や庭先に生えている草木を煎じて染めてみるのも面白いですよ。大体は、茶系か黄色っぽくなりますが、予想外の色に染まることもあります。
坊所:草木染に適した、身近な素材があったら教えてください。
小室:たとえば、たまねぎの皮は黄色に染まります。毎朝飲むコーヒーのカスを30杯分ぐらい溜まるまで冷凍保存して、それで染めてもいいですね。賞味期限が過ぎてしまったオレンジジュースでも染められますよ。捨てるはずだったものを有効活用するので、食品ロスの削減にもつながりますよね。
坊所:飲み会などで赤ワインのシミをうっかりつけてしまうと、処分するしかないなとあきらめていましたが、そうした服を染めてみたいと思いました(笑)。
小室:それくらい気軽なノリで始めてほしいです。ワインのシミなら、ワインで染めても面白いですね。
坊所:なるほど。キットや特別な道具がなくても染色はできるし、いろんなもので染められることは今回の体験での収穫です。
小室:必要なのはバケツと長めの菜箸、あとは鍋くらい。キッチンやバスルームにある道具で事足りますよ。料理に目玉焼きから本格フレンチまで幅があるように、草木染にも段階はあります。ただ、自分なりに楽しめる方法を知っていると、暮らしが豊かになりますよね。
さらに、お薦めしたいのはいま人気のアウトドアで草木染をすること。キャンプで火を起こしたついでに、キャンプ場周辺で集めたドングリや落葉で染めれば、いい思い出になると思います。

坊所:どんどんとアイデアが出てきて、小室さんの草木染愛が伝わってきました。

話す女性

サステナブルな展望

坊所:今後、どんな活動や展開を描いていますか。
小室:僕はただ草木染が好きで続けてきただけで、僕一人で業界全体を変えられるとは思っていません。そもそも、かつて日本の草木染は、技術や色の多様性などで世界トップレベルでした。しかし、それは次第に失われてしまっています。すごくもったいないですし、歯がゆいですよね。
草木染やテキスタイルに携わり誠実に仕事をする人たちが、きちんと暮らせるような仕組みになっていってほしいと切実に感じています。


 環境に優しい草木染をさらにサステナブル=持続可能にしていくために、小室さんは少しずつ動き出しているようです。

小室:まだ形になっていないことも多いのですが、たとえばお花屋さんや結婚式場で大量に廃棄されてしまう草花を譲り受けて染めたりしています。また、小豆島のオリーブ農家さんが定期的に剪定した際に、切り落として捨てられる枝をいただいて染色に使ったりもしています。似た取り組みとして、山梨のブドウ畑で剪定されるブドウのつるや、メロン農家さんから大量に出るメロンの葉っぱなど、そうした今までは染めたことがなかったエコな素材で染めるチャレンジもしています。農家さんにとっても、廃棄するのは大変だろうから喜んでいただけるんじゃないかなと。


坊所:メロンやブドウのつるからどんな色が染まるのか、すごく楽しみです。ちなみに、プライベートでは、どんなサステナブルなアクションをしていますか。
小室:草木染をしていると聞くと、仙人みたいな生活をしていると思われることも多いですが(笑)、普通にファストフードも食べますよ。ただ、可能な限りモノを永く使い続けるよう心がけています。服は着なくなったら誰かに譲ってリレーユースしたり、染め直したりしています。そこはかなりこだわるし、永く使ったほうがかっこいいとすら思っています。ですから、買う前はすごく考えるし、永く使って味が出るものを吟味しますね。

話す男性

【体験を通じて】編集長後記

草木染の体験を振り返って、坊所編集長が感じた“サステナブル”とは…。

 私が通っていた中高には「工芸」の授業があり、実はその時に草木染を体験したことがありました。でも、そのときはこんなにきれいに染まらなかったし、道具を揃えたりするのも大変そうなイメージでした。今回の草木染めは思っていた以上に手軽で、そのうえきれいに染まり、仕上がりにすごく満足しています。お気に入りのアイテムが1つ増えたので、大事に使いたいですね。
 なにより素敵だなと思ったのは、小室さんが草木染を愛していて、それをたくさんの人と分かち合おうとしていること。自分の知識を惜しみなくシェアして、人にも環境にも優しい草木染を広めようとしている姿勢に胸を打たれました。
 古い歴史がある草木染の技術を守り、発展させていくこともサステナブルですし、捨てるはずだった衣類を永く使うことにもつながる。草木染にはとてもサステナブルな可能性があるなと感じました。

完成したストールを見せ前でつける女性

取材協力店

アトリエ外観

Maito Design Works 蔵前本店
SHOP:〒111-0051 東京都台東区蔵前4-20-12 クラマエビル1F
アトリエ:〒111-0051 東京都台東区蔵前4-14-12 1F
TEL:03-3863-1128 OPEN:11:30-18:30
定休日:月曜日

(文・キツカワユウコ)

profile
KÓMERU編集長 五郎部
サムネイル: KÓMERU編集長 五郎部
日本最大級のリユースデパート・コメ兵のオウンドメディア「KÓMERU」の編集長。 賢くオシャレにサステナブルを楽しむ方法を日々発信中。 編集長の傍ら、KOMEHYO SHINJUKU WOMENにも勤務し、若手ながらハイブランドに精通したスタッフとして活躍中。