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コラム

Syncs.Earthの100%土に還るモノ作りとは? 所有しないという新たな選択

日本最大級のリユースデパート、コメ兵のオウンドメディアKÓMERU編集長の坊所が、Syncs.Design代表の澤柳さんにSyncs.Earthの循環するモノ作りについて伺いました。所有しないという新たな選択とは?知ることから一緒に始めていきましょう!

【Syncs.Earth(シンクスアース)とは?】

KÓMERU編集長 坊所(以下、坊所):始めに「Syncs.Earth」はどのようなブランドか教えて下さい。

話す女性

Syncs.Design代表 澤柳(以下、澤柳):「Syncs.Earth」はファッションブランドというより、服が土に還るまでを一貫して提供する「所有しない」循環型のファッションサービスです。「循環型社会を世界に巡らせる」ことを大きなビジョンとして掲げ、「誰かの日常を循環させるスイッチになる」ことをミッションにしています。

私はファッションデザイナーとして十数年間働いてきましたが、デザインの受託業務をやる中で大量生産大量消費のごみ問題を目の当たりにしました。この問題を今までのようにデザインの力だけではなくもう少しカルチャーを変えられるような自社ブランドを一貫してやりたいという想いからこの事業をスタートしました。

土に還る服

【「100%土に還る」循環するモノ作りとは?】

坊所:「100%土に還る」というコンセプトにこだわる理由を教えて下さい。

澤柳:私たちは循環するモノ作りを実現するため、商品を「土に還す」ことで「作る責任、使う責任、捨てる責任」この3つをしっかり果たしていこうとしています。

土に還るとは、化学的要素が一切入っていない天然素材であることが大前提です。100%天然素材であれば繊維の1本も残さず完全に自然に還すことができます。縫い糸はもちろんその他の素材に1%でも化学的要素が入らないように徹底しています。

100%天然素材の服

一般的なアパレルの縫い糸は基本的にポリエステルが使われていますが、品質表示にはオーガニックコットン100%と表示されていたりします。服の重量の5%以下であれば表示義務がないので、品質表示が100%天然素材だからといって100%土に還るとは一概に言えません。

話す男性

もしそれを知らずに土に還したら、化学繊維は残ってしまうので産業廃棄物になります。「作る責任」をしっかり果たすことが「捨てる責任」にも繋がるのでとても重要なポイントです。

土に還る途中の服と商品


土に還している途中の和紙Tシャツ(左)、新品の和紙Tシャツ(右)

また、服を作る過程で裁断時に端切れがどうしても出てしまいます。今までは工場で捨てられていましたが、この部分はこれまでメーカーやデザイナー、消費者には見えていない部分でした。私たちは裁断の端切れを全て回収し土に還しています。「廃棄物0」これもこだわりの一つです。

坊所:製品に使用している素材「和紙」に着目したきっかけを教えて下さい。

和紙でできた服

澤柳:和紙は生分解性が高いので土に還りやすいことから着目しました。吸水速乾性が高く、水に濡れた時の強度が綿より高いなど、機能性も高くかなりしっかりした素材です。

和紙は水通しをした後、天日干しをしたりと、制作過程がいくつもあります。出来上がるまでに手間と時間がかかる分、価格はとても高いですが、日本発信の素材でもあるので世界へ向けても発信していきたいです。

和紙のTシャツ

地球に還る、100%和紙Tシャツ

坊所:Syncs.Earthが提案する新しい商品利用方法「循環購入」について教えて下さい。

澤柳:Syncs.EarthのECサイトは「循環購入」と「通常購入」から選択でき、「使う責任」をお客様と一緒に達成していくためのコミュニケーションツールになっています。

循環購入は無期限のレンタルで、通常購入の2/3の価格で購入できる新しい仕組みです。商品の返却が必須で、返却された商品はアップサイクルか自社農園で土に還しています。

通常購入の場合返却は任意ですが、私たちとしては全て回収したいので返却していただく場合は買取しています。ご自身で土に還しても問題ないですが、土の中の状態を整えないとなかなか分解しないので、しっかりと水分量やバクテリアの管理をしている自社農園で土に還したいという思いがあります。

畑にまかれている土に還る服

坊所:具体的にどこでどのような方法で土に還していますか?

澤柳:最初は東京あきる野市の小さな畑で分解の実験から始め、今年に入ってから規模を広げて現在は2ヶ所の畑で土に還しています。

耕作放棄地だった土地を開拓から始めて、自然の生態系に合った自然農法、有機農法で野菜も育てています。その土の中に返却された服や端切れを埋めて菌や微生物の力を使ってしっかり分解していきます。

話す男女

坊所:どのくらいの期間を経て分解しますか?

澤柳:土壌の状態にもよりますが、夏だと分解が早くて和紙のTシャツは2週間ほどで分解しました。通常は和紙で3ヶ月、コットンで6ヶ月くらいかかります。きちんと管理された土壌でないと1年以上かかることもあります。

服が土に還る様子

坊所:100%循環させるために難しい点はありますか?

澤柳:循環購入は新しい商流なので、例えば商品を失くされてしまったり、稀ですが化学染料のペンキで汚れてしまうと土に還せなくなったり、問題はたくさんあります。

そこで現在、そういった場合に保険が適用できないか保険会社と一緒に仕組み作りをしています。循環購入をアパレルだけではなく他業種でも適用できるような共同開発も進めているところです。

坊所:実際に商品を返却する方はいますか?

話す女性

澤柳:昨年の6月にサブスクリプション(以下、サブスク)からスタートし、商品が増えてから循環購入と通常購入を増やしました。循環購入は去年の12月から始めたので返却はまだありませんが、サブスク購入者からは何名か既にご返却いただきました。

ですがサブスクはまだ着れても返却して新品と交換できてしまうのでコンセプトに合わないのではないかと社内で議論になっています。私たちとしては「なるべく永く着てほしい」という思いがあるので、仕組みを構築し直すため新規受付を現在一旦停止しリニューアルを検討中です。

坊所:返却された商品はリペア(修繕)できますか?

澤柳:返却された後は土に還す予定でしたが、まだ着れそうな商品は藍染をしています。化学薬品を一切使わず、天然素材のみで藍染することで、リペア後も繊維の一本まで地球に還すことができます。お客様自身で提携先の工房へ商品を送って染め直すことも可能です。

【澤柳さんの考えるサステナブルとは】

坊所:澤柳さんが普段の生活に取り入れているサステナブルな取り組みはありますか?

澤柳:この事業を始める前までは正直あまり気にして生活していませんでしたが、だんだん意識が変わって新しい気持ちが芽生えました。一番大きな変化は土に触れる時間が増えたことです。

仲間と一緒にする畑作業はとても心地よく、日常生活でも色々なモノに対して「これは土に還るかな?」と考えるようになりました。何か捨てる時にも一度立ち止まって考えたり、自分自身もSyncs.Earthと一緒に日々成長していると感じます。

話す男性

坊所:澤柳さんの考えるサステナブルについて教えて下さい。

澤柳:サステナブルは最近よく使われるワードで、アパレル業界でもサステナブルな商品や素材を紹介してほしいと言われることが増えました。でも持論としてはサステナブルなモノはないと思っています。本来サステナブルは全体的な仕組みや商流を一貫して変えていき、消費者を巻き込むことだと思います。

消費者はサステナブルな取り組みをしているブランドの商品を買うことが最初のきっかけになると思いますが、その先の捨てるまでを考えて買う「意識」を変えていくことが重要です。

【「作る責任、使う責任、捨てる責任」を達成するには】

所坊:今後の展望を教えて下さい。

澤柳:ずっとECサイトのみで展開してきましたが、今年に入ってからポップアップ・ストアの出店にも力を入れています。最終的には自社農園で育てた野菜もファーマーズマーケットで販売し、着ていた服が土になり、その土で育った野菜を口にするという感覚をお客様に提供したいと考えています。

また、6月末には「シンクスラボ」というコミュニティーをスタートしました。月額の会員制で、みんなで野菜を育ててできた野菜をシェアしたり、Syncs.Earthの服を土に還す体験ができます。今後はコミュニティ作りにも力を入れていきます。

資源は限られているので循環していかなくていけません。「作る責任、使う責任、捨てる責任」を1社で果たしていくのではなく、様々な企業やメーカー、消費者を巻き込んでビジョンを達成したいと思います。

坊所:新しい視点でのお話とても勉強になりました。ありがとうございました!

文:大信田千尋

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KÓMERU編集長 五郎部
サムネイル: KÓMERU編集長 五郎部
日本最大級のリユースデパート・コメ兵のオウンドメディア「KÓMERU」の編集長。 賢くオシャレにサステナブルを楽しむ方法を日々発信中。 編集長の傍ら、KOMEHYO SHINJUKU WOMENにも勤務し、若手ながらハイブランドに精通したスタッフとして活躍中。